巷には「健康器具」と言われるものがあふれています。
新しいものが出てきては消え、消えてはまた新しいものが出てきますね。
「〇〇に効果があります!」と聞くと期待して買っちゃう人も多いのですが、そのうち使わなくなって捨ててしまったという人も多いのではないでしょうか?
患者さんからも「〇〇って効くの?」と質問を受けることも多いので、鍼灸師・柔道整復師の目線で色々と検証、紹介していきますね。
今回は「ぶら下がり健康器」です。
ぶら下がり健康器とは?
ぶら下がり健康器は、日本体育大学の塩谷宗雄先生のグループが考案、発表したものです。
塩谷先生は、ぶら下がり健康器を発表するまでは、肉体労働者の背骨や腰痛の研究をされていて、1960年代で既に「労働者の腰痛を防いで生産性を下げないようにする」をテーマに数々の論文を発表されておられました。
そして1970年代にぶら下がり健康器は、健康雑誌で紹介されたことをきっかけに一大ブームとなりました。
ぶら下がることで肩こりや腰痛が解消出来たり、姿勢が良くなる…という期待の元に多くの人が買い求め一家に一台はあったというほど普及しましたが、そのうち「洋服掛け」、「部屋干し用」として使われるという運命をたどります。
ですが、鍼灸師目線で言わせてもらうと、ぶら下がり健康器には十分な効果があります。
- 背すじを伸ばすのに有効
- 猫背、腰痛の解消
- 腹筋を鍛えるのにも効果
…などが期待出来ます。
ぶら下がり健康器の効果 ~身体の重心線を真っすぐする~
下の図は身体の「重心線」です。
重心線が地面に対して真っすぐそろっているので最も安定する姿勢です。
ぶら下がり健康器は、この重心線をそろえることが出来るんですね。
ちょっと寄り道しますが、「下げ振り」ってご存知ですか?
こんなやつです。
糸の先におもりがつけてあり、家を建てる時や測量の時に「真っすぐかどうか?」を調べる時に使います。
吊り下げられたおもりは必ず地面に対して垂直になりますから、柱や建物が傾いているかどうかがわかるという仕組みです。
ということは、ぶら下がると身体は真っすぐになるという理屈です。
ぶら下がり健康器が効果するのはどんな人?
①腰を伸ばせない、腰が丸くなっている人
ぶら下がることで「背すじ」は伸びます。
医学的に言えば、「腰椎が伸展」します。
↓ 腰の動きで言えば、こういう動きですね。
いわゆる「腰を反らす」という動きになります。
ぶら下がらずにこのように背すじを伸ばす動作をした時に痛みが出る場合、以下のような状態と考えられます。
1.筋肉が硬い
2.腰椎の関節の動きが悪い
3.腰椎が折れている
「腰が痛い」という場合、「筋肉の問題」か、「関節の問題」か、「骨の問題」のいずれかに当てはまる(または複数の合併)のですが、「3.腰椎が折れている」のは骨折ですからぶら下がり健康器はNGです。(知らず知らずのうちに腰椎が折れているというのは高齢者に起こりがちなものですが、若年者や中高年でもみられます。気になる人は整形外科を受診しましょう。)
1.の筋肉が硬い人であれば、硬くなっている筋肉を少しずつやわらかく出来るのでぶら下がり健康器を使うことが推奨されます。
無理のない範囲で継続すれば効果が出てくるでしょう。
筋肉の柔軟性というのは数週間運動を継続すれば改善されます。
2.腰椎の関節の動きが悪いという場合はさらに「軟骨の摩耗」、「靭帯が硬くなっている」、「関節を包んでいる関節包の柔軟性が悪くなっている」ということが考えられます。
「靭帯」や「関節包」の柔軟性の改善性は、筋肉よりも悪いです。
数カ月は継続して行うことが必要になります。
筋肉も靭帯も関節包も、単に硬くなっているだけでなく「癒着」している場合には、効果を早く感じたいからといっていきなり長時間ぶらさがったり、無理して腰を反らすような動きをしないようにしてください。余計に痛めてしまう可能性があります。
「軟骨の摩耗」の可能性がある場合は注意が必要です。
関節の軟骨がすり減ってくるとギシギシ動くようになっています。
ですから、今以上の摩耗を防ぐために「出来るだけゆっくりと動かす」ようにしてください。
早く動かすと軟骨の破壊を進むだけでなく、関節周囲の靭帯や関節包や筋肉も痛める可能性が高くなります。
②猫背の人
背中が丸くなっている猫背の人は、上記のような腰を反らせない状態から始まっていることが多いです。
腰が反らせない状態が進み、胸椎、頚椎の動きも悪くなり、背骨全体が丸くなってしまっています。
猫背の人の背骨の周りの靭帯や筋肉は硬くなって柔軟性が悪くなっています。
考案された塩谷先生の論文を引用、参考にすると
反復による筋, 筋膜, 靱帯ことに後縦靱帯に対する適度の収縮, 弛緩により, 緊張性疼痛の緩和となる。
とあります。ポイントは「反復する」と「適度の収縮、弛緩」です。
ぶら下がった時の「揺れ」は、背骨の周りの靭帯や筋肉を「適度」に伸ばしたり縮めたりします。
その繰り返しが組織を柔軟するということですね。
どのくらいぶら下がると効果が出るのか?
塩谷先生の報告によると、ぶら下がって筋肉や靭帯に牽引力が加わり伸びるまでには「1~2分」の持続時間が必要とされています。
そして伸びた筋肉や靭帯は、ぶら下がりを止めてから「5秒後には元の長さ」にもどってしまうんですね。
つまり、ぶら下がることで筋肉や靭帯を「伸ばす → 縮む → また伸ばす → また縮む」ということを繰り返していくうちに柔軟性を取り戻し、猫背や腰痛が改善されるということです。
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